狂言「六地蔵」(撮影:政川 慎治)
地蔵堂を建てた田舎の男(アド)が六体の地蔵像を安置しようと思い、都で仏師(ぶっし)を探し回ります。その様子を見ていたすっぱ(シテ)(詐欺師)が、自分は由緒正しい仏師、真仏師(まぶっし)であると名乗り、像を造ってやろうと男に持ちかけます。六体の特徴を聞いたすっぱが完成まで三年以上かかると言うと、男はもっと急ぐように頼みます。すると今度は、明日にも像が出来上がると言い出します。たくさんの弟子が造った像のパーツを、最後に自分が膠(にかわ)で付けるのだとすっぱが答えると、男は納得し明日の今頃までに造るように頼みます。出来上がった像は因幡薬師(いなばやくし)の後堂に置いておくということになり、二人は別れて行きました。さて、すっぱは三人の仲間(小アド)を呼び出すと……。
男が注文した六体の地蔵、すなわち六地蔵は地獄・餓鬼・畜生・修羅(しゅら)・人間・天上の六道(ろくどう)で苦しむ者を極楽浄土に導く菩薩(ぼさつ)です。そのようなありがたい地蔵の像に人間が扮するという、狂言ならではの趣向が見どころです。しかも、それぞれ数珠・錫杖(しゃくじょう)・法衣・鉾・宝珠を持つ地蔵と、手を合わせる地蔵、合計六体の地蔵を、三人で表さなければいけません。このことが、混乱と笑いを引き起こしていきます。
因幡薬師は京都市下京区の平等寺のことで、狂言〈因幡堂〉〈鬼瓦〉〈仏師〉等の舞台にもなっており、都の町衆たちに身近な寺であったようです。
シテ(すっぱ):野村 萬斎(狂言方 和泉流) 後見:飯田 豪 |