《朝夕安居》は、鏑木清方が戦後に手がけた名作のひとつです。明治20年代の東京・築地付近から八丁堀界隈までの情景を、朝、昼、夕の三つの場面に分けて描いています。
芸人が住む長屋の賑やかな朝、風鈴売りが百日紅の木陰で休む昼、町内の共同の涼み台で憩う夕、四メートルに及ぶ画巻には、市井の人々の穏やかな暮らしが細やかに表されています。
清方は、明治のはじめに東京に生まれ、幼少期を下町で過ごしました。画家となってからも東京に暮らし、疎開を経て戦後、68歳で鎌倉に移り住んでからは「専ら市民の風懐に遊ぶ」と称して、心赴くままに制作しました。そんな清方が「心のふるさと」と語り、もっとも心惹かれた題材が明治の東京の情景でした。
本展覧会では、《朝夕安居》に描かれた街並みや風俗を詳しく紹介し、清方の記憶に宿る明治の東京をひも解き、ご紹介します。